“例えばこんなクリスマス”(SweetVer)『君が望む永遠』涼宮茜SS 番外編


「本当に大丈夫かい茜?」
「大丈夫、大丈夫……」
お父さん達に答えてリビングを出る。
階段を上がり、部屋に戻るとそのままベッドへと倒れ込んだ。
勢いで飲んだシャンパンの性か少しだけ顔が火照る。


枕元に起きっぱなしの携帯のディスプレイには、
出せずじまいのメールがそのまま映っていた。



「―――孝之さんの、バカ」
口に出して言ってしまって……自己嫌悪で自分が嫌になった。



クリスマス―――孝之さんとつきあい始めて…初めてのクリスマス。
お父さん、お母さん、姉さんと私。4人で我が家で過ごせる3年ぶりのクリスマス―――


孝之さんと何度も話し合って、何度も何度も考えて―――
クリスマスは家で過ごそうと決めた。


でも、それを打ち明けるより早く―――姉さんは、水月先輩とクリスマスの予定を入れてしまった。
姉さんが、きっと私と孝之さんの事を考えてそうしてくれたんだっていうのはわかる。
だけど―――孝之さんはもう、お仕事を入れてしまっていて―――
姉さんを責めることも、孝之さんにそれを打ち明けることも出来なくて―――
そのまま今日、クリスマスイブを迎えてしまった。
誰も悪くなくて………誰も責められなくて―――それが、辛かった。



………コツン


………コツン



―――ん……
………何かの物音で目が覚める。いつの間にか眠っていたらしい。


………コツン


物音の正体を探すと、窓の向こう側からだった。
カーテンを開け、外の様子を見る。



「――――え?」
窓の向こう―――外に立っていたのは、間違いなく孝之さん。



上着を羽織り、外へと向かう。
孝之さんはいつものように微笑いながら―――けど、顔にはいくつかの痣を作っていた。


「た、孝之さん、それ――どうしたんですか?」
「ん?ああ………これ?ちょっと野獣とやりあってさ」
「野獣って……まさか大空寺さんですか?酷い!なんでこんな事……」


「いや……今日ばかりはアイツを責めないでやってくれないか?」
「―――どうしてですか?」
「“んなしみったれた面見せるな、先帰れ”ってさ―――」
「…………え」
大空寺さんが……そんな事を?


「もう夜は遅いし―――今からだと、
どっか洒落たところに行くわけにも、おいしいディナーって訳にも行かない。顔には痣だって作ってる。
―――だけど、それでもオレと……一緒にクリスマスを過ごしてくれる?」


「………孝之さん、キザです」
「え?」
「………クサいです」
「………」


「でも………―――大好きです」
「――――オレもだ」


「………ダメです」


「え?」
「私はちゃんと言いました。私も………ちゃんと、言って欲しいです」


「――――茜が好きだ。どうしようもないくらい―――好きだ」
「……私もです」


「……ずるいな、それは」
「ふふっ、少しだけ待ってて下さい。すぐに着替えてきますから」


家に戻り、慌てて服を着替える。
ルージュを引き、ほんの少しだけ大人びた化粧。


仕舞っておいたプレゼントを取り出し、リビングに居るお父さんお母さんのところへ。


「―――行ってきます!」
「……行ってらっしゃい。気をつけてな」
「うん!!」



飛び出していった茜を見送るふたり。
「……やれやれ」
「幸せそうですし、良いじゃありませんか」
「―――そうだな」




聖夜の夜―――
初めて過ごす、ふたりのクリスマス―――
微笑む孝之さんに腕を絡める。



「お待たせしました」
「行こうか。―――どこに行く?」


そんなの決まってる。
私が居たい場所はたったひとつ―――――
「―――私は……」