2010年『君が望む永遠』涼宮茜生誕記念SS
「ありがとうございましたー」
店員の声を尻目に店を出る。
季節は秋で時刻はもう夕方。
ようやくそれなりに過ごしやすい日も出てはきたものの、
それでも日中の陽気次第では、まだまだ暑い日もある。
今日はちょうど、そんな一日だった。
両手に持った買い物袋を片手に持ち替え、
空いた手で汗を拭おうとすると、カゴを置いて駆け寄ってくる姿が目に入った。
「ひとつ持とうか?孝之」
「いや、大丈夫だよ茜」
微笑いかけてくる茜に腕を預け、そんな返事をした。
今日はもう何度目か分からないデートをして、その帰り。
いつもの様に夕飯は家で食べるということになり、おかずを買いにスーパーへ寄った。
夕飯は初めのうちはコンビニ弁当だったが
茜が“自分がが作る”と言い出し最近では専らふたりで作るのが習慣になっていた。
「孝之どうしたの。考え事?」
買い物袋をしみじみと眺めていると、茜がそんなことを聞いてきた。
「ん?いや……」
「あ、もしかして出来のこと心配してる?大丈夫だよちゃんと習ったからー」
茜の料理の腕はここしばらくで格段に上がっていた。
最初のうちは、オレが作ったほうがまだマシという惨憺たる状況だったのだが、
最近は普通に美味しいものが出てくる。
ただ、やはりまだまだ慣れていないのか、量が全体的に多かったりはする……
(どうも茜の御家族分、4人が基準なんだろう。
お父さんやお母さん、涼宮さんに面倒かけてないといいんだが……)
それはオレの体型的にも、経済的にも改善は求めたい部分ではある。
とはいえ……茜が普段どれだけ頑張っているか知っていて、
そして何より────茜にベタ惚れしているオレに、言えることなんてないわけだ。結局。
「茜」
「んー?」
「……愛してる」
あさっての方向を見ながら、聞こえないように呟く。
「え?ちょっと聞こえなかった。何?」
「……なんでもない」
「え?ちょっと何ー?」
「だからなんでもない。ほら早く帰って夕飯作るぞ」
「……はーい」
……今はまだ、照れくさいけど……
またいつか、言える日も来るだろう。
遠い未来。
その日、この言葉を口にする相手が、目の前の彼女であって欲しい────
茜とデートして、こうやって街を歩く。
夕飯を一緒に作って、一緒に食べて、一緒に微笑う。
そんな日が当たり前になって、当たり前に過ぎていく。
そんな日々がずっと続いて欲しい。
そう──思えるから。